どりふてぃんぐそうる

Twitter:@fair_mios3

2021春アニメ感想② オッドタクシー/ひげひろ/スライム300/フルダイブ/戦闘員/スーパーカブ/おさまけ

前半はこちら。前後半ともにネタバレあります。

liveindead.hatenablog.com

 

オッドタクシー

f:id:Liveindead:20210711174841j:plain

評判が良かったので一気見したがかなり面白かった。本作を語るには不可欠なのでもうネタバレしてしまうが、ブラックな内容を隠蔽することにしかゆるい動物のビジュアルは活かされないかと思いきや、実は彼らは人間で主人公の小戸川が自閉症だから動物に見えていたという仕掛けはアニメ特有の演出で感動した。

バズり目的で過激な行動をする樺沢だったり、ゲーム依存の結果犯罪に走る田中だったり、マッチングアプリで経歴詐称をする柿花だったりと、アニメーション形式ではあるが現代社会の病理を徹底して取り扱っている点でやっていることはテレビドラマの文法そのものだ。彼らを含めた15人程度の主要キャラを群像劇として動かし、伏線を回収していく構成には舌を巻いた。

 

終わってみれば多くのキャラが逮捕されたり喪失を経験したりしているが、中でも幸福になった者、そうでない者に分けられる。個人的にはそれらを分かつものは行動原理の方向性にあるように思う。主人公の小戸川は「身の丈以上のものはいらない」と大金を手にするチャンスを放棄する。彼は恩人へ恩返しをすることが目的で、行動原理が個人の範疇で解決している。同じように大人な人物として描かれるのがドブだ。彼は犯罪者で最終的に逮捕されるが晴れやかな顔をしている。彼はマレーバクの上司への上納金を納められればそれでいいので、樺沢を追い詰めた際も「内省しろ」と謝罪動画を投稿させただけで終わる。彼らは任侠ものよろしく、自分の中の義理とか人情に従って行動しているため軸がブレることがない。

一方でトップアイドルになりたい二階堂、バズりたい樺沢、復讐がしたい田中など(最後に更生したとはいえ)不幸になった人物に共通するのは行動原理が外向きであるということだ。9話でドブが樺沢に説教したように、彼らは承認欲求が強い癖に自己肯定感が低く、だからこそ他者からの承認に自分の存在価値を規定する。その結果行きつくのは樺沢の言うように虚無でしかない。経歴詐称した柿花は美人局に騙され、復讐を果たした田中は自殺を試み、死体遺棄に加担した二階堂も逮捕され物憂げな表情を浮かべる。身の丈を超える行動を起こすと何かを犠牲にするか虚無が待っている。このことは逆説的に今井が宝くじの賞金を放棄したにも関わらず幸せそうにしていることからも伺える。

 『オッドタクシー』の面白いところはもう一段階アクセルを踏み込むところにあって、小田川のように内向的に生きることが肯定されているわけではないということだ。結果だけ見れば主要キャラの多くが逮捕されたり犯罪に加担していたりその他酷い目に遭っており、プラマイで言えばマイナスに近い。平穏な日常を望んだ小戸川もラストシーンで不穏な展開が待ち受けている。終盤の白川が「勧善懲悪ではいかない」という発言にあるように、現代社会はそんなに単純には立ちいかない。和田垣のように最後まで捕まらないサイコパスもいるのだ。自閉的に生き異常者扱いされていた従来の小戸川も、手の届く範囲で他者とかかわりを持った作中の小戸川もどちらが幸福と言えるのかは怪しいし、決して後味の良い作品ではないが色々と挑戦的な作品でかなり面白かった。

 

 

ひげを剃る。そして女子高生を拾う。

f:id:Liveindead:20210711174907j:plain

 面白かった。タイトルでおっさんの妄想全開のエロアニメかと勘違いしそうになるが、話はケータイ小説(死語)に近くて、暗い過去を持つJKを社会人男性が救済する構図を取る。家出女子高生を保護するという犯罪テーマを扱う事情もあるのか、主人公の吉田は聖人のように描写される。ルックスはそれなりかつ正義感が強く、仕事ではエース級で上司や後輩に思いを寄せられ、異常趣味などもなく独身であること以外は非の打ち所がない。タイトルに釣られて現実逃避しようと見始めたオタクからすると吉田は感情移入できないキャラクターだ。そもそもヒロインは援交しまくってる家出少女だし、作中にレイパーは出てくるは主人公は犯罪者扱いされるわでラノベアニメにしては暗い設定が見受けられるのでオタクには刺激が強い。

主人公の正義感は自己満足だとか犯罪だとか視聴者が真っ先に考えることは作中で指摘されていてよかったが、最終的に主人公のこの思想はラスボスの母親のさらに歪んだ思想で上書きされて有耶無耶にされたのは微妙だった。ただ主人公は歪んだ正義感を自覚した上で、恋愛関係に陥らずあくまで保護者として奔走した点はポイントが高い。運命的な出会いとはいえ犯罪は犯罪で、問題が解決されれば彼らは別々の日常に生きるしかない。

 

 

スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました

f:id:Liveindead:20210711175416j:plain

 面白くはなかったが美少女しか出てこないため見ていた。タイトルを見るとチート能力で無双する典型的ななろう系かと勘違いするが、主人公であるアズサはスローライフを送りたいだけなので自己防衛のためにしか力を行使しない。スローライフを送るためとはいえ300年間も毎日スライムを狩り続けてレベリングするアズサの異常性について掘り下げられるかと思っていたが、そんなことは一切なく毎話毎話幼稚な仲良しごっこをやっていて気楽に見れた。アズサが(間接的に)チート能力で美少女を侍らせる行為は、女主人公だからマチズモ的文脈を排除して嫌味なく疑似家族として受け取ることができる。女主人公じゃなかったら確実に切っていたので美少女は偉大だ。

 

 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら

f:id:Liveindead:20210711174928j:plain

 まあつまらなかった。王道は面白いから王道なのであって、逆張りだけしても面白くないのは当然と言える。一応ギャグアニメにカテゴライズされるらしいがリアルでもゲームでも主人公が悲惨な目に遭うばかりであまり笑えない。

 ただここまで徹底して逆張りを続けたことには一貫性があってよかった。つまらない逆張りに終始することでつまらないこと自体に価値があるアニメになるので、ある意味無敵かもしれない。

 

 

戦闘員、派遣します!

f:id:Liveindead:20210711175431j:plain

 つまらなくはなかった。作者が同じなので下品な『このすば』の認識が通用する。

カズマはヒロインたちを性的な目で見れないが、小悪党の6号はヒロインや敵幹部までもを性的に消費する。フェミに怒られそうだが「悪行ポイント」の設定は結構面白くて、このシステムのおかげで6号は正義のためという大義名分を得て合法的にセクハラをすることができる。ただ6号は悪党は悪党でも非常になりきれない子悪党でしかないので、スカート捲りはできても強姦はできないし殺人もできない。こういった、ギャグだからと勝手に境界線を引いてセーフアウトを決めてしまう道徳観こそ卑怯なのではと思わなくもない。

 

 

スーパーカブ

f:id:Liveindead:20210711174949j:plain

 惰性で見始めた割には楽しめた。美少女萌えアニメというよりは、ビジュアルは美少女のコミュ障オヤジのバイク趣味をハードボイルドテイストで鑑賞するアニメという認識の方が近い。1話冒頭で主人公が天涯孤独で市営住宅暮らしの苦学生という設定を明かす時点で萌えキャラゴリ押しアニメではないと察した。

中盤以降の小熊と礼子のホモソーシャルな友情が非常に面白かった。2人の絡みで特に好きなのが8話で、友人が働く喫茶店に入るや否や礼子が知識をひけらかして店をdisり始めるのは腹を抱えて笑った。基本的な行動が女子高生というよりは不良のそれで、バイクのモチーフと相まって見た目に反して硬派なアニメでよかった。

 

 

幼なじみが絶対に負けないラブコメ

f:id:Liveindead:20210711175443j:plain

フルダイブと張るレベルでつまらなかった。タイトルでも分かるように3話ごとの区切りで毎回メインキャラたちが勝負をして、対決後に勝敗発表が行われる構成となっている。主要キャラは表面上仲良しグループだが、内実は主人公を巡って敵対する関係である。親友枠でさえ主人公を利用するために近づく徹底ぶりで、そんな実情を主人公だけが知らない様子は滑稽だ。ヒロインズは主人公を賭けた恋愛ゲームに勝利するため、親友枠は父親に復讐するために時に協力し、時に敵対する利害主体なので、作中で言及されているように最も利己的で腹黒な幼なじみが最終的に勝利するのは必然かもしれない(タイトル回収!)。 

 

 

あとがき